第103回第2言語習得研究会(関東)

日時: 2019年6月15日(土)  13:00~17:30


◆ 場所: お茶の水女子大学 文教育学部1号館 第一会議室
★ 会場にご注意ください! *大学まで;http://www.ocha.ac.jp/common/image/access_map2.jpg

   土曜のため、正門(東門)しか開いていません。

   正門は春日通り沿いですので、最寄り駅は丸の内線の茗荷谷駅になります。

*学内マップ;http://www.ocha.ac.jp/help/campusmap_l.html#no1(4番の建物です)

 

◆ 事前申し込み:不要

 

参加費:2,000円 

 

◆ プログラム

【総会】13:00-13:10
【研究発表】13:10-15:50
 1.13:10
 沈倍宇 昭和女子大学 大学院生
 「日本語聴解のための音声テキストの研究:ースクリプトの有無によるパフォーマンスの比較を通してー」
 2.13:50
 石曉  昭和女子大学 大学院生
 「中国人日本語学習者のビリーフと学習動機の調査研究―中国北部3年制大学生を対象として―」
 3.14:30
 徐恵君 拓殖大学 大学院生
 「現代語の「~つつある」の使用状況―日本の日本語教科書と中国人の日本語学習者を中心に―」
 4.15:10
 劉瑞利 お茶の水女子大学 大学院生
 「中国語を母語とする上級日本語学習者のコロケーション受容知識に影響する要因の検討―中国語との語彙的一致
 性・コロケーションの頻度・共起強度を中心に―」 
【ご講演】16:00-17:30 
 西川朋美先生(お茶の水女子大学)
 「一粒で二度おいしい」研究―SLA理論と教育現場への貢献を目指して―  
◆ 要旨
【研究発表】
1.沈倍宇
「日本語聴解のための音声テキストの研究:ースクリプトの有無によるパフォーマンスの比較を通してー」  
中国国内の日本語教育の現場で、学習者が耳にする音声テキストの大半はスクリプトに基づいて録音したものである。それを実際の自然な音声と比べると、話速や口語体の特質において大きく異なる。本研究では、中国人学習者26人を対象に、日常会話でよく使われる場面を取り上げ、スクリプト有のテキストとスクリプト無の自然なテキストの両方を学習者に聞かせ、①学習者の聴解パフォーマンス、②聴解過程が両テキスト間でどう異なるかについて調査した。その結果、記述式聴解テストをデータとした①については、場面によって、異なる結果が得られ、その理由については今後の課題としたい。また、回想インタビューによるプロトコル調査をデータとした②については、スクリプト無のテキストを聞いた被験者は、より多くの聴解ストラテジーを使用し、テキストの広い範囲と照合する傾向が窺えた。
2.石曉
「中国人日本語学習者のビリーフと学習動機の調査研究―中国北部3年制大学生を対象として―」
本研究の目的は中国北部3年制大学の日本語専攻学習者を対象に、ビリーフと学習動機の実態を調べ、4年制大学日本語学習者と比較することである。調査は、2016年115人を対象とし、BALLI(Beliefs About Language Learning Inventory)(5段階評定)とAMTB(the Attitudes/Motivation Test Battery)(7段階尺度法)を実施した。BALLIに関しては、各項目の平均値、賛成率および反対率、さらに、学年別の平均値を算出した。AMTBの結果に関しては、因子分析を行った。また、これらの結果を4年制大学について同様の調査を行なった先行研究の結果と比較した。その結果、ビリーフについては、各項目の平均値、賛成率および反対率に関して、4年制大学と類似した結果が出た。しかし、学年別の平均値に関しては、「言語学習の自律性」について、4年制大学の調査結果では学年があがるにつれて一定の自律性が育っていたのに対し、本調査では、自律性が学年とともにむしろ減退する傾向が見られた。学習動機に関しては、4年制大学の調査結果と類似しており、両調査結果とも道具的学習動機が強いことを示した。今回の結果から、3年制大学の学習者は3年生になると、教師への依存が低くなり、自律性も低くなることから、学習者の日本語学習に対する意欲も低下になっていることがわかった。 
3. 徐恵君
「現代語の「~つつある」の使用状況―日本の日本語教科書と中国人の日本語学習者を中心に―」
本研究では、最初に、書き言葉としての「~つつある」が日本語教科書(計127冊)でどのように扱われているかを明らかにした。続いては、中国の大学における日本語学習者(以下、学習者と省略する)の「~つつある」の使用状況を調査し、学習者の「~つつある」の把握状況を明らかにした。最後に、学習者に見られる「~つつある」についての用法が教科書のものと一致しているかどうかとを明らかにした。
今回の調査により、次のことが明らかになった。
①  「~つつある」を文型として説明している教科書は7あり、ほぼ「書きことばで使 われる。動作や作用がある方向に変化していることを表す」という意味の説明があるが、「『ている』と似ている」という簡単な説明のものもある。
②  教科書に見られる「~つつある」には、「接近」、「途中」、「継続」の三つの用法がある。
③  学習者に見られる「~つつある」には、「その動詞が表している作用や変化が始まっていて、変化つづいている(A)」、「その動詞が表しているある状態に達していないが、達しそう(B)」、「その動詞が表している作用や変化が継続の途中(C)」、「その動詞が表しているある状態に達している(D)」四つの用法がある。
④  学習者に見られる「D」という用法は、教科書には見られない。つまり、学習者が「つつある」の用法について、誤用が存在する可能性がある。 
 4.劉瑞利
「中国語を母語とする上級日本語学習者のコロケーション受容知識に影響する要因の検討―中国語との語彙的一致性・コロケーションの頻度・共起強度を中心に―」 
本研究は、中国語との語彙的一致性、コロケーションの頻度と共起強度(MI-score)が中国語を母語とする上級日本語学習者のコロケーションの受容知識に与える影響について調査したものである。調査項目は、両言語において同じ表現を使用する「C-J」、日本語のみにある「J-only」、中国語のみにある「C-only」、両言語どちらにもない「存在無」の4グループ計64項目である。そのうち、C-JとJ-onlyはコロケーションの頻度とMI-scoreの高低によってさらに4グループに分けている。文中における容認性判断タスクを用いて調査した結果、語彙的一致性によって点数に有意な差が認められた(C-J>J-only≒C-only≒存在無)。また、高頻度を除きC-JとJonlyの間に、C-Jを除き高頻度と低頻度の間に点数の差が有意であった。高頻度の場合にのみ、MI-scoreの高低によって差が見られた。  

【ご講演】
西川朋美先生(お茶の水女子大学)
「一粒で二度おいしい」研究―SLA理論と教育現場への貢献を目指して―  
第二言語習得(SLA)研究の全てが教育現場に貢献する研究である必要はないと思いますが,講演者自身は学生時代から教育現場(特に子どもの日本語教育)に貢献ができる研究がしたいと考えてきました。そして,日本語をL2とする子どもの自然発話の記述や関係節の理解・産出実験を行いました。しかし,理論や教育現場への貢献を考えるとそれぞれに物足りなさが残りました。2011年度から科学研究費を得て行った和語動詞のコロケーションに関する研究は,まずは教育現場に役立つ研究を目指していました。「母語話者の子どもにとっては簡単な和語動詞でも,日本語をL2とする子どもにとっては難しいものがある」という調査結果(西川・青木,2018)は,日本語教育やSLAの専門家ではない人にとってもある程度分かりやすいものだったと考えています。そして,その結果に「L2習得開始年齢」という視点を加えると,SLA研究にも少しは理論的貢献が出来ました(Nishikawa, to appear)。本講演では,理論と教育現場,両方への貢献を目指すために大切なことは何かを考えたいと思います。
参考文献
西川朋美・青木由香(2018)『日本生まれ・育ちの外国人の子どもの日本語力に潜む盲点―簡単な和語動詞での隠れたつまずき―』ひつじ書房
Nishikawa, T. (to appear). Non-nativelike outcome of naturalistic child L2 acquisition of Japanese: The case of noun–verb collocations. International Review of Applied Linguistics in Language Teaching.