「中国語母語話者による二字漢字語の意味理解に関する考察―漢字語カテゴリーに着目して―」
2. 13:45-14:25
朴美貞 昭和女子大学大学院生
「韓国人日本語学習者による終助詞「ね」の習得─自由会話コーパスをデータとして─」
3. 14:30-15:10
萩原章子 国際基督教大学 日本語教育プログラム 講師
「非漢字圏学習者による音-意味―字形の関連付け:認知的負荷の観点からの検証」
【ご講演】 15:30-17:00
本林響子先生(お茶の水女子大学)
「言語・社会・SLA -
社会言語学とSLAの接点を探る」
◆ 要旨
【研究発表】
1. 陳夢夏
「中国語母語話者による二字漢字語の意味理解に関する考察―漢字語カテゴリーに着目して―」
日本語と中国語は漢字という共通の文字を使用しているため、漢字圏に属する中国語母語話者にとっては、母語知識・既習知識を利用することで漢字語学習の負担を可能な限り小さくする可能性がある。そうした目的から発表者が意味的に対応する「中国語相当語」という概念に着目し、従来の意味対応関係を再検討し、二字漢字語の日中対照の新しい枠組みを提案した。さらに、新たな漢字語カテゴリーに基づき、JFL環境の日本語を専攻とするCNS学習者を対象とし、読解の口頭訳テストを通して、「意味理解のストラテジー」「総合的語彙知識」との相関を考察した上で、新たな枠組みの妥当性を検証した。
2. 朴美貞
「韓国人日本語学習者による終助詞「ね」の習得─自由会話コーパスをデータとして─」
従来の「ね」の習得研究では「ね」を機能や用法で分類しているが、その区切り方が研究によって異なるため、研究間の比較がしにくい。また、各機能における正用と誤用は分析されているが、使われるべき箇所で使われない欠落については、言及はあるものの数値的な分析がされていない。さらに、「ね」は情報の所在によって出現するため、話題が統制されない会話データでは、データによって「ね」の出現が変わる可能性が高いことも従来の研究の課題であった。
本研究では、話題となる情報が話し手と聞き手のなわ張り内にあるかどうかによって用いられる言語形式が選択されるとする神尾(2002)の「情報のなわ張り理論」を用いて「ね」を分類する。話題を統制したインタビュー形式の会話コーパスを用い、インタビューされる側の日本語母語話者と韓国人日本語学習者の「ね」の使用状況を欠落も含めて分析し、先行研究を補填する「ね」の習得の実態を明らかにする。
3. 萩原章子
「非漢字圏学習者による音-意味―字形の関連付け:認知的負荷の観点からの検証」
非漢字圏学習者が漢字学習に困難を覚える理由として、字形の複雑さに由来する認知的負荷が考えられる。漢字の多くは字形と読みの関連が希薄であるため、発音の知識は学習に貢献しないという考えがある。一方Multimedia learning
theory(Mayer, 2001)によると視覚情報と音声情報を同時に与えることで学習効果が高まると考えられ、漢字学習でも字形と音声の関連付けが重要だと予想される。
上記の説を検証するため、57名の日本語中級学習者を対象に、音符(例:校の「交」)を含む新出漢字の学習効果を比較した。学習者は、音声・意味・字形から順番に二要素を取り出して覚える群と三要素を同時に覚える群に分けられ、学習成果を複数のテストを用いて測定した。
スピアマンの順位相関係数を用い検証した結果、三要素を同時に覚える群の方が二要素ずつ覚える群より音声と意味の関連付けが強かった。また既存知識と新出漢字の関連づけが起きにくいことも判明し、Multimedia learning
theoryを支持する結果となった。
【ご講演】
本林響子先生(お茶の水女子大学)
「言語・社会・SLA -
社会言語学とSLAの接点を探る」
この講演では、近年の応用言語学における社会言語学的な議論を踏まえ、現在SLA研究の中で社会言語学的な理論や事象がどのように扱われているかを概観します。まず、1990年代後半から社会言語学や言語人類学が応用言語学にどのような変化をもたらしたかを概観し、それらの概念がSLAの教科書にどのように取り入れられ始めているかを2010年代の教科書を検討しながら紹介します。最後に、社会言語学的なアプローチの中の多様性と、このアプローチが持つ可能性および限界について議論したいと思います。