第100回第2言語習得研究会(関東)

日時: 2018年6月30日(土)  13:00~17:00


◆ 場所: お茶の水女子大学 共通1号館 301
★ 会場にご注意ください!
*大学まで;http://www.ocha.ac.jp/common/image/access_map2.jpg

   土曜のため、正門(東門)しか開いていません。

   正門は春日通り沿いですので、最寄り駅は丸の内線の茗荷谷駅になります。

*学内マップ;http://www.ocha.ac.jp/help/campusmap_l.html#no1(5番の建物です)

 

◆ 事前申し込み:不要

 

参加費:2,000円

(年度はじめとなりますので,みなさまにいただいております。

 一度お納めいただきますと,年度内の研究会参加は無料となります。)

 

◆ プログラム

1.研究発表13:00-14:20
(1). 13:00-13:40
     龔 雪 麗澤大学大学院大学院生
      「ピア・レスポンスにおける日中両言語によるインターアクションの特徴」
(2). 13:40-14:20
     鄭 穎 武蔵野大学大学院言語文化研究科修了生
      「中国語を母語とする日本語学習者の終助詞「よ」「ね」「よね」のイントネーション産出」

2. 第100回記念パネルディスカッション 14:40-17:00
「日本における第二言語習得研究の誕生と発展,そして未来を語る」
司会:森山新先生 (お茶の水女子大学)
JSL習得研究:誕生の頃、そして今」
長友和彦先生(大葉大学(台湾))
学習者言語をみることのおもしろさ」
大関浩美先生(麗澤大学)
日本語SLA研究のこれから―臨界期仮説・年齢要因の研究を例に―」
西川朋美先生(お茶の水女子大学)

◆ 要旨

【研究発表】
1. 「ピア・レスポンスにおける日中両言語によるインターアクションの特徴」 龔 雪
本研究は、中国人日本語学習者6名を対象に、ピア・レスポンスを母語と日本語で行い、日中両言語によるインターアクションの特徴を以下の三つの側面から明らかにしたものである。まず、「取り上げられたトピック」について、中国語によるものでは「構成」「内容」、日本語では「主旨」「表現」に関わるトピックが相対的に多かった。次に、「トピックの出現の仕方」について、トピックの出現を時間軸に沿って分析したところ、中国語によるものでは「構成」「内容」に関わるものが先行し、その後に「表現」に関するものが徐々に出ていることがわかった。さらに、「コメントの質的分析」について、日本語によるピア・レスポンスでは「ローカルな指摘」が多かったのに対し、中国語では「グローバルな指摘」が多かった。コメントの特徴をさらに見てみると、日本語は「表現中心の添削型」、中国語は「読み手中心のアドバイス型」と言えるものであった。

2.「中国語を母語とする日本語学習者の終助詞「よ」「ね」「よね」のイントネーション産出」 鄭 穎
日本語のコミュニケーションにおいては終助詞が多用されるが、同じ終助詞でもイントネーションによって異なる意味を伝達するため、学習者にとって終助詞の使い分けは難しい。本研究は、外国語環境で学ぶ中国人学習者が、終助詞「よ」「ね」「よね」のイントネーションをどの程度適切に産出できるかを探ることを目的とする。
対象者は中国の大学で日本語を学ぶ学習者44人(1年生9人、2年生22人、3年生13人)である。「よ」「ね」「よね」それぞれ3つの意味機能に焦点を当てて作成した会話文(各機能3文ずつ、合計27文)の音読データを、表現意図が適切に伝わるかどうかという観点から母語話者教師2名が評価した。
その結果、全体としては学習歴が上がるにつれて、各終助詞の評価が高くなる傾向があった。しかし、終助詞の意味機能ごとに分析すると、1年の時から適切に産出できている意味機能や、その反対に3年になっても適切に産出できていない意味機能などもあり、終助詞の意味機能によってイントネーションの産出は難易度が異なることが明らかになった。

【パネルディスカッション】
1. 「JSL習得研究:誕生の頃、そして今」 長友和彦先生
 約30年間、JSL習得研究と関わってきた。その関わりの流れを次のように10年ずつ区切ってお話しすることで、今後のJSL習得研究の何らかの参考に資することができればと思う。
 (1)1987年(広島大学赴任と同時にJSL習得研究に着手)
➡️(2)1997年(ジャーナル『第二言語としての日本語習得研究の展望』の発刊。この時初めてJASLAという英語名を併用。)
➡️(3)2007年(「多言語多文化同時学習支援」の理論・実践・運動の展開)
➡️(4)2017年(「多言語多文化同時学習支援」の制度化)
 (1)と(2)が「誕生の頃」、(3)と(4)が「今」と関わるが、(2)と(3)の間に私自身のパラダイムシフトがあった。発表の中で、次のような点にも触れたい。
・実際に何があったのか。
・もし、習得研究の中で「こういう状況が作られれば習得が進む」という成果が得られたとしたら、研究者は、その検証も兼ねて、そういう状況を自ら進んで作り出し、それを制度化していく努力もすべきではないか、など。

2. 「学習者言語をみることのおもしろさ」 大関浩美先生
近年、SLA研究の分野では、習得メカニズムの解明を目的とした様々な実験研究が盛んに行なわれている。一方で、日本語を対象としたSLA研究の分野では、大規模な学習者コーパスが公開され、学習者の発話をみる研究が身近なものになってきている。しかし、学習者コーパスが使われた研究の多くは、誤用分析や用法別に何が使えて何が使えないかの記述にとどまる研究などが多く、習得プロセスを明らかにしようとした研究や理論的な説明を試みた研究は少ないのが現状である。本発表では、学習者の発話をみた研究でどのような習得プロセスがみられたか、そしてどのような理論的説明が可能かを、発表者自身が行なってきた研究(「~とき」節の習得、名詞修飾節の習得、外の関係の習得など)を紹介しながら、学習者の発話をみる研究で何ができるかを考えたい。

3. 「日本語SLA研究のこれから―臨界期仮説・年齢要因の研究を例に―」 西川朋美先生
日本語を対象としたSLA研究が,近年少しずつ増えてきているが,その中には日本語という言語の特徴を活かした研究もあれば,そうでない研究もある。前者の代表例が,英語など欧米語とは主要部の位置が逆となる日本語の関係節を扱った研究である。前者のタイプの研究の場合,日本語を対象としたSLA研究が,研究分野全体に与える貢献は比較的明確である。一方,後者の場合,その貢献度が曖昧となることも多い。SLA研究の中ではまだ数少ない日本語を扱った研究だというだけで注目に値するのではないはずである。本発表では,発表者がこれまで行ってきた臨界期仮説・年齢要因の研究を例に,後者のタイプの日本語を対象としたSLA研究の今後について考え,議論のきっかけを提供したい。